2015-01-01から1年間の記事一覧

文脈が読めない人

「匿名について」で述べたように、私は亀山郁夫のドストエフスキー論を知るまで、インターネット上の掲示板には関心がなかった。インターネットというのは外国の新聞や雑誌を読むための道具だと思っていた。しかし、亀山のドストエフスキー論を賞賛している…

くたばれ、フロイト、ラカン!

昨夜、テレビをつけると、偶然、『沖縄 うりずんの雨』を撮ったジャン・ユンカーマン監督が沖縄のことを話していた(BS-TBS「週刊報道LIFE」:2015/5/10/pm.21:00-22:00)。要するに、現在、沖縄といわゆる「本土」の関係が悪化しているのは、「本土」の人間…

武田泰淳

武田泰淳は好きな作家で、若い頃は雑誌にその文章が掲載されると、それが短文であっても、わざわざその雑誌を買って読んでいた。こんなことをしていた作家は島尾敏雄や小川国夫など、数人しかいない。しかし、武田泰淳のどういうところが面白いのか、私には…

反精神分析

最近、朝日新聞に連載されていた「人生の贈りもの わたしの半生」シリーズで上野千鶴子氏が記者の質問に次のように答えていた。 ――家族や生い立ちについては一切答えない、としていた時期もあったそうですね。 子ども時代のことを聞くインタビュアーって、育…

「一度生まれ」の詩人?

ウィリアム・ジェイムズの『宗教的経験の諸相(上)(下)』(枡田啓三郎訳、岩波文庫、1969-1970)というのは、宗教的回心を心理学者の立場から論じた本で、私はこれを学生の頃からくり返し読んできた。で、原書はいつ出版されたのかと思い返してみると、す…

団塊の世代と戦争後遺症

私はこれまで何回か、面と向かって、 「どうして団塊の世代の人にはバカが多いんでしょうね?」 という意味の言葉を投げかけられたことがある。そう言うのは、きまって、私より一回りぐらい若い世代の男性だ。きっと団塊の世代にひどい目にあったのだろう。…

中沢新一と亀山郁夫(3)

これまで見てきたように、中沢新一や亀山郁夫にモラルがないことは明らかだろう。彼らは『地下室の手記』の主人公と同様、自分の欲望を満たすためなら、どんなことでもするだろう。 なぜ彼らはそのような人間なのか。それは彼らに宗教がないからだ。ここで私…

中沢新一と亀山郁夫(2)

「中沢新一と亀山郁夫(1)」で私は「中沢は自分が麻原の共犯者でないことを証明するため、正視できないほどの醜態をさらした」と書いた。それはたとえば、有田芳生が以前、自分のブログで書いていた次のような事態を指している。 地下鉄サリン事件が起きた…

中沢新一と亀山郁夫(1)

中沢新一と亀山郁夫はよく似ている。そう思ったのは、亀山郁夫の『『悪霊』神になりたかった男』(みすず書房、2005)を読んだときだ。亀山のロシア革命を嘲弄した『熱狂とユーフォリア』を読んだとき、すでにそう思ったが、『『悪霊』神になりたかった男』…

ラニョー

「優等生の愚かさ」で述べたように、優等生というものは自分の頭で考えようとはしない。それは、自分の頭で考えていると効率が悪いからだ。効率が悪いとはどういうことか。 それは、正しいかどうか分からないが、ともかく、先生が正しいと言っているのだから…

優等生の愚かさ

すでに「非暴力を実現するために」で述べたことだが、私は小学校に入って、先生のいう「1+1=2」の意味が分からず、ひどく苦しんだ。また質問しても答えてくれる先生もいなかった。先生は呆然とするだけだった。このため、そういう先生に教えてもらう学…

酒鬼薔薇聖斗

朝日新聞の記事で今月号の『文藝春秋』にいわゆる酒鬼薔薇聖斗事件に関する神戸家裁の少年審判決定全文が掲載されているのを知り、その『文藝春秋』を読んだ。期待通り、そこには少年A(自称「酒鬼薔薇聖斗」)の成育歴がかなり詳しく記されていた。この成育…

倍賞千恵子

なぜか私は倍賞千恵子という存在が好きで、若い頃から、彼女の出る映画はできるだけ見るようにしてきた。 きょう、テレビをつけると、偶然、すでにしわくちゃになった倍賞氏が岩崎宏美と並んで森繁久弥の「オホーツクの舟歌」を歌っていた。その姿を見て、思…

勝ちたい心

以前、レヴィナス研究者の内田樹氏に、私も参加しているある研究会で話して頂いた。でも、その話の内容は全部忘れた。ただ、今も記憶しているのは、話がおわったあとの雑談で氏が言った、 「私は知り合いになるとまずいことになる人が分かる。だから、そうい…

『硝子障子のシルエット』

島尾敏雄の作品はすべて好きだが、若い頃、人に「読め読め」としつこくすすめていたのが、掌編小説集 『硝子障子のシルエット』である。これは庄野潤三がラジオ局に勤めていたとき、島尾に依頼して書かせた朗読用の作品だ。 この作品を私は文学の授業でしば…

倉本聰

先月、BS-TBSの「みんな子どもだった」で、いつもは進行役の倉本聰自身がゲストになって喋った。その四回目、倉本がNHKの大河ドラマ「勝海舟」の脚本を放棄するに至る経緯を語っているのを聞いて、少し驚いた。 倉本が言うには、NHKは組合の力が強く、スタッ…

古館伊知郎とプロレス的構造

子供の頃はプロレスが好きで、とくに、力道山や東富士が好きだった。家にテレビがないので、近所の金持の家に上がりこんで見せてもらった。その状態がずっと続き、家にテレビが来てからもプロレスは見続けた。しかし、あるとき、誰かから「プロレスというの…

何を読むか(6)

『ヴェネツィア――水の迷宮の夢』(ヨシフ・ブロツキー) 小説家や詩人とかぎらないが、人と人との付き合いと同様、書き手と読み手のあいだにも相性というものがある。文章の息づかいなのか、間の取り方なのか、それとも血液型なのか(冗談)、ともかく、何だ…

暴論あるいは正論?

前回、年を取ってくると、抽象的な理屈が空しくなると述べた。しかし、それは若いころから分かっていたはずのことで、それはどういうことなのか、じっくり考えるべき事柄のひとつであったはずだ。 でも、若いころは知識が不足しているので、知識を増やすため…

何を読むか(5)

「七万人のアッシリア人」(ウィリアム・サローヤン) 年を取ってくると、同じ本をとっかえひっかえ読むようになる、と、昔、年寄りの吉田健一と石川淳が対談で喋っていた。吉田健一はそのあとすぐに、石川淳はそれからかなりたって亡くなった。石川はしぶと…

何を読むか(4)

『人生、しょせん運不運』(古山高麗雄) このシリーズの初回で、「私は古山高麗雄の脱力した文章が好きだ」と述べたが、古山はいつもいつも脱力していたわけではない。やはり人間なので、腹の立つこともある。そういうときは、全身に力が入ったようだ。とく…

何を読むか(3)

『孤島』(J・グルニエ) 私には若い頃、よく理解できないのに、この本は自分にとって決定的な意味をもつと思うことがあった。なぜそんな風に思ったのか。私に未来を見通す超能力があったからか。ばかな。そう思った理由ははっきりしている。私は狂っていたの…

何を読むか(2)

『男のポケット』(丸谷才一) 私は50歳近くになってある大学に拾われた。それまで、関西のさまざまな大学で非常勤講師をしながら、家族と自分の命をほそぼそとつないでいた。別の所にも書いたように、40歳をすぎた頃から週に25コマ教えなければ生活し…

何を読むか(1)

「蟻の自由」(古山高麗雄) 「どうせ死ぬなら、女を知ったって知らなくたって、すぐなにもかもなくなっちゃうじゃないか」 と僕が言うと、 「きみは、散々遊んできたから、そんなことが言えるんだ。俺はそうはいかん」 と小峯は言いました。 「そうか、じゃ…

高須久子

NHKの大河ドラマ「花燃ゆ」が始まった。前回の大河ドラマ「軍師官兵衛」は、大河ドラマとしては久しぶりに男性の書いた脚本で安心して見ることができた。と言うと女性蔑視のように思われるかもしれないが、そうではなく、「軍師官兵衛」以前は、大河ドラマの…

アイヒマン的なるもの

小林秀雄が『満州新聞』に一九三七年から一九四〇年に書いた文章が見つかったというので、その文章が掲載されている雑誌『すばる』(2015年2月号)を購入した。感想から先に言うと、これまで読んできた小林の文章と同じもので、新しい事実は何もなかった。そ…

何を書くか

わたしが下らないと思う作家は、前に述べたように、間違ったことを書き、その間違いを他人から指摘されても訂正も謝罪もしない、厚顔無恥そのものの作家だ。それは誰かと問われれば、わたしは即座に十人以上の作家や学者を挙げることができる。そのような作…

なぜ書くのか

わたしはなぜものを書くのか。これはものを書きはじめた頃からいつも自分に向けてきた疑問だった。それが何であれ、小説であれ論文であれ、ものを書くときにはいつも自分に「自分はなぜこれを書いているのか」と問いかけてきた。わたしにとって書くとは、な…

一度でも

一度でも手を抜いたらだめだよ。それを読んだ人は、もう二度ときみの書いたものを読んでくれないからね。 四十年以上前、学生の頃、小島輝正から言われた言葉だ。当時、ある同人誌の編集をしていた小島が「原稿がない」と嘆いていたので、書きためていた小説…

悲しい記憶

トルストイの『アンナ・カレーニナ」』の冒頭に、「幸せな家庭はすべて、おたがいに似ている。でも、不幸な家庭はそのひとつひとつが、それぞれに不幸だ。(Все счастливые семьи похожи друг на друга, каждая несчастливая семья несчастлива по-своему.)…