物語の暴力

「ドストエフスキーの壺の壺――シニフィエはどこにもない」

「ドストエフスキーの壺の壺――シニフィエはどこにもない」のリンクを張って欲しいというリクエストがありましたので、リンクを張りました。しかし、スマホでこのリンク先を見ようとしても、なぜか、見ることができません。ご覧になりたい方は、パソコンでご…

怪物

久しぶりに映画館に行って映画を見た。「怪物」という映画でした。面白かった。偶然なのだろうが、いつもドストエフスキー講座でわたしが述べている「物語の暴力」と「シニフィエはどこにもない」ということをテーマにした映画だった。

インテリ

「物語の暴力」について。 不良僧の穴山に、泰淳とおぼしきインテリの柳は、「お前さんなんか『赤』にでもならなきゃ、世の中のことはサッパリわからんのだから、なりたけりゃ、おなりなさい」と言われる(武田泰淳、『快楽』)。世の中を知りたいインテリが…

訂正

以前書いた「神聖不可侵なもの」について、野口剛夫氏から自分の書いたものではない文が引用されているというご指摘を頂いたので、訂正しました。深くお詫びします。なぜそんなことになったのか。自分でもそうなった理由が分かりませんが、いずれにせよ、申…

「ドストエフスキーを読む」講座について

「ドストエフスキーを読む」講座について言い忘れていたことがありますので、追記します。 昨年度も『罪と罰』(新潮文庫、工藤精一郎訳)について述べましたが、今年も『罪と罰』(ただし、岩波文庫、江川卓訳)について述べます。こんなことをするのは、わ…

「ドストエフスキーのエレベーター」

拙著「ドストエフスキーのエレベーター」が出ました。お読み頂ければ有り難いです。

頭が良いということ

頭の良い人と悪い人がいるらしい。わたしにはこれが分からない。理屈の立つ人が頭が良いということにはならない。たとえば、ある解決困難な事象Aに対してBとCという二つの相反する結論があるとしよう。例としては、日本国憲法9条(A)に対する賛成(B)と反…

フェミニズム、マルクス主義、土壌主義

このブログの「吉本隆明の亀山郁夫批判」でも述べたように、ドストエフスキーの唱えた土壌主義というのは、貴族である自分を養い育ててくれた人々(農奴や労働者)に対する恩を忘れないということにすぎない。もっと理屈っぽい言葉で言うなら、そのような人…

吉本隆明の亀山郁夫批判

テレビで亀山の「100分de名著」を見ていて、吉本隆明の「大衆の原像」という言葉を思いだした。それは亀山がドストエフスキーの土壌主義のことをのべていたからだ。 このブログ(「第二の敗戦期」)でも紹介したが、吉本は亡くなる前、亀山の訳した『カラマ…

暴力の起源

思考において、文脈というのはもっとも重要なものだ。文脈を無視した思考は暴力にすぎない。国会中継やテレビ・新聞などを見ていると、マスコミ(左右を問わず)や国会議員(与野党を問わず)には、文脈を無視して自分に都合のよい方向に話をねじまげてゆく…

不登校と医療

昔、大阪で「不登校と医療を考える」というシンポジウムを開いた。精神科医の石川憲彦、川端利彦、門真一郎、それと東京シューレの奥地圭子の四人にしゃべってもらった。とても有益な内容のシンポジウムになった。不登校児が精神科医にかかるさいの参考にな…

西部邁の死

西部邁が亡くなった。西部邁は自尊心の病から脱け出したのだろうか。どうもそんな風には思われない。最後まで気にくわないやつを罵っていた。若い頃から西部を尊敬していたので、きわめて残念なのである。

イントレランス

ある人が思想的に右、あるいは左、あるいは中道であっても、それはその人の思想なので、私が批判することではありません。しかし、その人が自分の自尊心の病に気づいていないとき、そういう思想は、きわめて危険なものになると思います。なぜなら、自らの自…

良心的兵役拒否

良心的兵役拒否というのが私は嫌いです。良心的でなければ、兵役を拒否してはいけないのかと思う。それはまさに辺見さんがおっしゃるように、兵役という制度自体を認める行為でしょう。非良心的兵役拒否でいいじゃないですか。そう書いたら、鶴見俊輔が賛意…

誰も反対できない

若い頃は、おれのような愚かなエゴイストが、戦争反対、差別反対、などと誰も反対できない立派な正しいことを言ってなんになる、と思っていた。いまは、そうは思わず、自分の愚かさは自然とその振る舞いに出る、と思う。出るものは仕方がない、と、あきらめ…

インキジノフとダニレフスキイ

折目博子の短篇小説「ツィゴイネルワイゼン」。娘のゆうこを自殺で亡くした「私」と夫との会話。 「私は生きることが楽しく、あなたと愛し合うことが嬉しく、あなたの赤ちゃんをたくさん生んで、その人たちを上手に育てて、みんなで仲良く暮らそうと思ってい…

手のひらの星

大学に入ったばかりの娘が自殺する。「私」はなぜ娘が死んだのかと考えるうちに、夫との関係に問題があったことに思い当たる。 「一度、君に言っておこうと考えていたんだが、君の、いかにも世界中でいちばん僕を愛してます、という態度は、実に押しつけがま…

物語の暴力 

最近の理研によるSTAP細胞論文の捏造、朝日新聞による吉田調書の誤読、朝日新聞による慰安婦報道の訂正、さらに産経・読売による菅総理の原発事故対応に対する誤報、さらに、さまざまな冤罪事件などを見ていると、やはり、私のいう「物語の暴力」、つまり思…

いじめ

私は専門のドストエフスキー研究についやした時間よりも不登校とか引きこもりの子供たちや大人たちと付き合った時間の方が長いと思う。そんなことをし始めたのは、私の娘がいじめで不登校になったのがきっかけだが、最初はおそるおそる、そのうち本気で彼ら…

文脈

ある男が詐欺にあった好きな女に「お前はバカだなー」と言うとすれば、この「バカ」というのが「記憶力や理解力が世間一般の人に比べてひどく劣っているととらえられること」(『新明解国語辞典』)という辞書的な意味でないことは明らかだ。しかし、では、…

天皇の政治利用

内田樹による天皇の政治利用 先の「神聖不可侵なもの」という文章で、私は次のように書いた。 「内田樹は天皇という日本人の多くにとって「神聖不可侵」な存在を、自分の政治的な目的のために利用した。このため、私は違和感を覚えたのだ。」 しかし、こう書…

神聖不可侵なもの

最近、内田樹が「僕が天皇に敬意を寄せるわけ」という文章を書いていた。私はその文章に違和感を覚えたので、その理由について書いておきたい。なぜなら、その違和感は私が最近の政治状況にしばしば覚える違和感でもあるからだ。 日本人には最期に結論を言うと…

ダウト

フィリップ・シーモア・ホフマンの出ていた「ダウト〜あるカトリック学校で」。同性愛者の神父役のホフマンはその怪しげな雰囲気がぴったりだった。厳格な校長のメリル・ストリープの演技もこれ以上はないというほどすばらしかった。その他、教師のエイミー…

トリクルダウン

アベノミクスの経済政策として有名になった「トリクルダウン」については、すでにドストエフスキーがそのポリフォニー小説に登場する人物の口を借りて、激しく批判させている。 『罪と罰』で、ラスコーリニコフの妹と結婚しようとしていたルージンは、こうい…

もっとも少なく悪い安保法制

私は先の安保法制をめぐる国会での与党と野党のやりとり、さらに国会を取り巻くデモをテレビで見ながら、この先、日本はどうなるのだろうと不安になった。そのことについて少し書いておこう。 もっとも、安保法制のような問題について述べるときには、まず自…

もっともらしい記事

私は朝日新聞を、字が読めるようになってから、ということは、もう60年くらい読んでいる。しかし、朝日がつくづくイヤになり、他の新聞に乗り換えたことも何度かある。しかし、他の新聞では物足りなくなり、朝日に舞い戻るということを何度かくり返してき…

平和ボケと超自我

きのうの終戦記念日、朝日新聞に安倍首相の「戦後70年の安倍談話(全文)」が、日本政府の英訳付きで掲載された。そして、そのちょうど裏がわの紙に、岩波書店による「戦後七〇年 憲法九条を本当に実行する 柄谷行人」という全面広告が印刷されていた。そ…

文学とは何か

文学とは何か。それは概念で述べる物語(社会学、政治学、経済学など)に抵抗しながら、人間をありのままに捉えようとする言葉によって物語を作ろうとする働きのことだ。 たとえば、誰それはマルクスの何とかいう理論を知らないまま、ああいうことを言ってい…

引き裂かれたもの

引き裂かれたもの(黒田三郎) その書きかけの手紙のひとことが 僕のこころを無残に引き裂く 一週間たったら誕生日を迎える たったひとりの幼いむすめに 胸を病む母の書いたひとことが 「ほしいものはきまりましたか なんでもいってくるといいのよ」と ひと…

お笑いドストエフスキー講座

人間には二種類あって、ひとつは、人を笑わせるのが上手な人で、これは少ない。この種類の人間は稀少かつ貴重な存在と言ってもいいだろう。なぜ、稀少かつ貴重なのか。それは、人を笑わせるためには、さまざまな「共通感覚(常識)」を察知する鋭敏な神経を…