2015-01-01から1年間の記事一覧

取扱説明書

あるとき突然、ブルーレイで録画していたテレビ放送を見ることができなくなった。そこで、ブルーレイ録画機器の取扱説明書はどこだったか、と思い出しながら、その録画機器の背後を見ると、テレビと録画機器をつなぐプラグが外れていた。そのプラグを差し込…

吉行淳之介

先日、録画していた「宮城まり子と「ねむの木学園」、密着!15年の記録」(BS朝日、12月6日放送)というテレビ番組を見た。見たのは、わたしに吉行淳之介を愛読していた時期があったからだ。 若い頃から吉行淳之介の作品が好きで、だいたい『暗室』頃まで…

文は人なり

私は誰かが賞賛されているのを読むのは好きだが、新聞の書評のように、書いたのが仲間だから、あるいは、出版社から頼まれたから褒めている、というような文章は読みたくない。若い頃は、私もそういう太鼓もち仲間だと思われたのか、そういうやり取りをして…

多田智満子

ようやく心の整理がついて、というか、読む気になって、葬式のときに配布された多田さんの遺句集『風のかたみ』を読むことができた。『風のかたみ』は死に至る病床で多田さんが口にした句を高橋睦郎氏がメモしたものだ。その中の私の好きな句だけを選んで書…

希望

一昨日の朝日新聞夕刊(11月25日)に載っていた記事(下に引用)を読み、いつも同じことを考えている自分に気づいた。 この親に殺された女性が狂っていたとは思えない。なぜなら、記事にあるように、彼女は14年前に入院したとき、次のようなことを日記…

松本隆

何年か前、木造の家から鉄筋のアパートに引っ越して、ラジオが聴けなくなった。鉄筋がラジオの電波を妨げるためらしい。木造の家に住んでいたときは、寝床の中で朝の4時すぎからやっている「ラジオ深夜便」を聴いていた。というか、そのまま再び寝床でうと…

東京裁判

ベルジャーエフの西洋観 今もときどき読み返す文庫本のひとつに、学生のころ買った『現代世界における人間の運命』(ベルジャーエフ、野口啓祐訳、社会思想社、1957)というのがある。ヨーロッパに亡命していたロシア人のベルジャーエフが1934年に書いた…

井伏鱒二

私は高校の頃、井伏鱒二が好きで、その作品はだいたい読んだ。愛読するようになったのは、高校の図書館で偶然、井伏の「鯉」という短篇を読んだからだ。「鯉」というのは、青木南八という友人の死を悼んだ私小説だ。 「鯉」にとても感心したため、「鯉」のよ…

雲の中を歩んではならない

自分のことほどよく分からないもので、今年の夏の体調不良の原因は、先に述べたように、親しい友人に死なれたためだということが最近になって分かった。しかし、どうもそれだけではないらしい、ということも少しずつ分かってきた。今年の夏、あんなに憂うつ…

第二の敗戦期

最近、フォルクスワーゲンのディーゼルエンジンをめぐる不正が問題になっている。そんな不正を行ったのは、フォルクスワーゲンがトヨタなどに負けまいとして、車の販売数を伸ばそうと焦りすぎたためだということだ。 規模も業種も違うが、これは昨今の日本の…

美しい透明な存在

今年の夏は体調不良に悩まされた。何をするにもおっくうで、暑いというので畑仕事もいいかげんにすませ、年とともに下手になるギターにさわる気にもなれず、ますます下手になった。そして身体のあちこちが痛くなり、医者に行って、「お腹などが痛いんですが…

自尊心などありません

年を取ると、いろんなことを思い出すものだ。さっき、ふらふらと夕闇の中を散歩をしていると、変なことを思いだした。 三十すぎのころだったか、「あなたには自尊心というものがないの!」と、突然、私と同じぐらいの年のロシア文学研究者に怒鳴られたことを…

とちを買いました

私の大学での指導教授は小松勝助というウクライナ文学研究者で、ひどくどもる人だった。『世界名詩大成』(平凡社、1959)に小松先生の訳した「コブザーリ」の全訳が入っている。「コブザーリ」というのは、ウクライナの国民詩人シェフチェンコの代表作で、…

トリクルダウン

アベノミクスの経済政策として有名になった「トリクルダウン」については、すでにドストエフスキーがそのポリフォニー小説に登場する人物の口を借りて、激しく批判させている。 『罪と罰』で、ラスコーリニコフの妹と結婚しようとしていたルージンは、こうい…

日本人のエゴイズム

『京都新聞』(9月18日、朝刊)に内田樹が安保法案について書いていた。日本がアメリカの属国であるとか、属国であるので、安倍首相は先のアメリカ議会で安保法案の成立を約束したのだ・・・というような内田の言葉はその通りと私も思う。私もこのブログで何…

もっとも少なく悪い安保法制

私は先の安保法制をめぐる国会での与党と野党のやりとり、さらに国会を取り巻くデモをテレビで見ながら、この先、日本はどうなるのだろうと不安になった。そのことについて少し書いておこう。 もっとも、安保法制のような問題について述べるときには、まず自…

怒りの根

昨夜、私は歌手の高橋優くんと森山直太朗くんの三人で酒を飲んでいた。 「ほら、あのちょっと色の黒い、目の大きい女の子・・・そうそう、ぼくはあの夏菜さんという女の子が好きなので、NHKの「カバーズ」という番組をいつも見ているんだけど・・・きみがそ…

安保法制

マルクスやフロイトを批判しながら『世界の多様性』という瞑目すべき論文を書いた歴史人口学者、エマニュエル・トッドが、『文藝春秋』(2015年10月号)に、「幻想の大国を恐れるな」という中国論を寄稿しています。 その結論だけを言いますと、いまの中国は…

もっともらしい記事

私は朝日新聞を、字が読めるようになってから、ということは、もう60年くらい読んでいる。しかし、朝日がつくづくイヤになり、他の新聞に乗り換えたことも何度かある。しかし、他の新聞では物足りなくなり、朝日に舞い戻るということを何度かくり返してき…

歴史主義

朝日新聞に再掲載されている漱石の『それから』もそろそろ終わりにさしかかり、わたしはすっかり明治の人間になったつもりで、毎日それを読んでいたのだが、先日、その百六回目を読み、自分が明治の人間ではないことを改めて感じせてくれる一節に出会った。 …

DVにさらされる子どもたち

昨年の今頃、NHK(総合・大阪)で、「DVにさらされる子どもたち〜見過ごされてきた面前“DV”の被害」という番組を見て、フェイスブックに次のような文を書いた。今も同じ気持なので再録します。 - 昨夜見た番組。寝ようと思ってテレビをつけて見始めたら、最…

平和ボケと超自我

きのうの終戦記念日、朝日新聞に安倍首相の「戦後70年の安倍談話(全文)」が、日本政府の英訳付きで掲載された。そして、そのちょうど裏がわの紙に、岩波書店による「戦後七〇年 憲法九条を本当に実行する 柄谷行人」という全面広告が印刷されていた。そ…

敗戦しました

きのう、安倍首相が戦後七十年の首相談話を発表しました。その内容についてはいろんな人がいろんなことを言っていて、なるほど、と思うだけですが、どうして誰もその文章のことを言わないのだろうと不思議に思いました。 安倍さんの談話は他人事(ひとごと)…

文学とは何か

文学とは何か。それは概念で述べる物語(社会学、政治学、経済学など)に抵抗しながら、人間をありのままに捉えようとする言葉によって物語を作ろうとする働きのことだ。 たとえば、誰それはマルクスの何とかいう理論を知らないまま、ああいうことを言ってい…

文系不要論

文部科学省が国立大学に、ビジネスに役立たない文系学部は不要だという通知を出したということだ。けっこうなことだ。ついでに、ビジネスに役立たない理系学部も廃止してほしい。理系でもビジネスと無関係の学部はたくさんあるだろう。 こういう実学志向は昔…

引き裂かれたもの

引き裂かれたもの(黒田三郎) その書きかけの手紙のひとことが 僕のこころを無残に引き裂く 一週間たったら誕生日を迎える たったひとりの幼いむすめに 胸を病む母の書いたひとことが 「ほしいものはきまりましたか なんでもいってくるといいのよ」と ひと…

どしゃ降りの一車線の人生

森有正はそのドストエフスキー論で、人生は邂逅(かいこう)、つまり、出会いだという。私もそう思う。邂逅によって、人生が決まる。とくに学校の先生との出会いは大事だと思う。私ひとりの狭い経験にすぎないが、これまで不登校や引きこもりになった子供や…

お笑いドストエフスキー講座

人間には二種類あって、ひとつは、人を笑わせるのが上手な人で、これは少ない。この種類の人間は稀少かつ貴重な存在と言ってもいいだろう。なぜ、稀少かつ貴重なのか。それは、人を笑わせるためには、さまざまな「共通感覚(常識)」を察知する鋭敏な神経を…

ローレン、ローレン

「新聞」で中学校の恩師、下村先生のことを書いたあと、少しずつ中学生の頃の記憶が戻ってきた。 私が通っていた中学校は「兵庫県加古郡学校組合立山手中学校」という長たらしい名前の中学校で、今は「加古川市立山手中学校」になっているらしい。 山手とい…

モッブ

昔、中野孝次と柄谷行人がある文芸雑誌で対談し、大喧嘩になったことがあった。と言うより、この二人は文字通り水と油なので、大喧嘩になるのが分かっているのに、編集者が面白がって対談をさせたという風に私には思われた。 私はこの二人が好きではなかった…