2017-01-01から1年間の記事一覧

呆然

神戸には、昔、亡命ロシア人が多かった。私の恩師の奥さんも亡命ロシア人で、かつては「ミス・ハルビン」と言われるほど美しい人だった(らしい)。私はその恩師の葬式のとき、神戸のハリストス教会で奥さんに会っただけだ。そのときも彼女は十分美しかった…

憎い

「ずっと父親を偽善者だと言っていてね」 「そう?」 「でも、結局、その人も牧師だった父親みたいになってね」 「似てしまうわね」 「そうだね、憎んでいると」 「憎まないで生きて行けたらいいな」 「そうね」 「そうだね」

不死

人生、人生 わたしは信じない、迷信も予感も わたしは恐れない、悪意も中傷も わたしは逃げない、死などない 誰も死なない、不死しかない 十七歳であろうと、七十歳であろうと、死を恐れることはない あるのは今と光のみ 死も闇もない わたしたちは皆、すで…

全体主義

きょうの朝日新聞に丸山真男の朝日新聞記者宛の私信が載せられていた。私信でしか本音を言わない丸山も丸山だが、今頃になってそれを載せる朝日もどうかしている。昔、わたしがモスクワにいた佐藤優にこの丸山と同じようなことを書いた年賀状を送ったら、そ…

非政治的人間

佐高:(略)私は今回、公明党を「裏切り常習犯」と口をきわめて批判しました。しかし、創価学会には大衆のエネルギーが充満していて、それはもちろんファシズムに向かうかもしれないけど、逆の方向にいく可能性もあるわけですよね。 辺見:ああ、それじゃ佐…

魯迅

辺見庸:先ほどの中国の話にしても、戦争になれば負けるから話の糸口を見つけろと言っているわけではないのです。ぼくは徹底的な反戦主義者ですが、その立場から言っているのでもない。人間として根本のところでまず相手に、人間というものに興味を持てない…

良心的兵役拒否

良心的兵役拒否というのが私は嫌いです。良心的でなければ、兵役を拒否してはいけないのかと思う。それはまさに辺見さんがおっしゃるように、兵役という制度自体を認める行為でしょう。非良心的兵役拒否でいいじゃないですか。そう書いたら、鶴見俊輔が賛意…

セッション

「ラ・ラ・ランド」というミュージカル映画が良かったので、その映画と同じ監督(デイミアン・チャゼル)が「ラ・ラ・ランド」の前に撮った「セッション」という映画をレンタル店から借りてきて見た。 結論からいうと、「ラ・ラ・ランド」と同様、「セッショ…

豊洲移転問題

わたしはいまマスコミが騒ぎ立てている豊洲移転問題(注)そのものに興味はない。豊洲への移転は安全の面から言って、何の問題もない。わたしにとって興味があるのは、移転して何の問題もない豊洲市場について、なぜ小池都知事やマスコミが問題にしているの…

誰も反対できない

若い頃は、おれのような愚かなエゴイストが、戦争反対、差別反対、などと誰も反対できない立派な正しいことを言ってなんになる、と思っていた。いまは、そうは思わず、自分の愚かさは自然とその振る舞いに出る、と思う。出るものは仕方がない、と、あきらめ…

アルツハイマー

『作家が過去を失うとき』というのは、アルツハイマーになったアイリス・マードックとの生活を記した夫であるジョン・ベイリーの記録である。読んでいると、なぜか、こころがやすらぐ。泣きそうになるときもある。昔、ジョン・ベイリーの『トルストイと小説…

血管腫

四年前の今頃フェイスブックに書いた記事。年を取ると、意外なところに意外なものができる。楽しみです。というのは嘘。 小さな赤いあずき豆みたいなのが右のほっぺたにできて、たいしたことないや、と、あなどって、風呂の中でごしごしタオルでこすったら血…

女性装

むかし、わたしの友人に二人、女性装が趣味だという男がいた。と、言っても、ふだんから女性の姿をしているわけではなく、深夜こっそり、あるいは家に誰もいないとき、女性の服装をして楽しむのだそうである。 その告白は、酒席で、あるとき不意に、わたしに…

仁義なき戦い

京都府立医科大学の学長が暴力団組長との交際の件で、マスコミなどにいろいろ取りざたされ、体調を崩し、退任することになった。 暴力団というと、わたしには忘れられない事件がある。 あれは大阪のある大学の夜間部で教え、学生食堂で食事を終え、神戸は大…

石原慎太郎

豊洲問題で石原慎太郎に対する怒りがテレビを始めとするメディアで炸裂しているようだが、これは石原が自分でまいた種(タネ)だから、しかたがない。種というのは豊洲問題のことではなく、それ以前の石原の暴言だ。 わたしなどいちばん記憶に残っているのは…

上がらない方法

私たちは人間の活動を通して、その人間を見ている。そこに優劣はない。時間の流れの中で生きている人間に優劣をつけることなどできない。これはベルクソンが『時間と自由』の中で述べていることだ。 しかし、私たちは人間の活動から時間を奪いとり、その活動…

インキジノフとダニレフスキイ

折目博子の短篇小説「ツィゴイネルワイゼン」。娘のゆうこを自殺で亡くした「私」と夫との会話。 「私は生きることが楽しく、あなたと愛し合うことが嬉しく、あなたの赤ちゃんをたくさん生んで、その人たちを上手に育てて、みんなで仲良く暮らそうと思ってい…

手のひらの星

大学に入ったばかりの娘が自殺する。「私」はなぜ娘が死んだのかと考えるうちに、夫との関係に問題があったことに思い当たる。 「一度、君に言っておこうと考えていたんだが、君の、いかにも世界中でいちばん僕を愛してます、という態度は、実に押しつけがま…

内村剛介

わたしは内村剛介の書いたものをわりあいよく読んできたほうだと思う。ソ連の収容所などに関して、知らないことをいろいろと教えてもらった。これは感謝している。 しかし、あるときから、内村剛介は詐欺師と言ってもいい人ではないのか、と疑うようになった…

折目博子

夫も子供もいる「私」は、妻も子供もある男と、「自分達のあずかり知らない欲望のまま」、知らない街にゆき、そこで住みはじめる。今は亡き折目博子の短篇。折目博子は作田啓一の奥さんだった。小島輝正からそのことを教えてもらった。小島は富士正晴から折…

習うより慣れろ

わたしは五十年近く前、「習うより慣れろ」と繰り返す関口存男の何とかという本でドイツ語を学んだ。その本は今も、ほこりにまみれて家のどこかにあるはずだ。箱入りの、枕にできるほど分厚い、頑丈な本だった。じっさい枕にして昼寝をした覚えがある。 要す…

お座布団の上

昨日は林秀彦のわるくちを書いてしまったが、わたしは林を全部あかんと言っているわけではない。わるくちを言ったあとで言い訳みたいになるが、林の思想そのものは好きだ。たとえば、林は司馬遼太郎を尊敬していて、こういう。 司馬さんはずるいお方だった。…

エッチ

この前の公開講座のあとの懇親会、と言っても、わたしの場合、酒をがぶがぶ飲んで、わけの分からないことを叫ぶだけだが、その懇親会で、わたしと同じぐらいの年齢の女性に、 「わたし、「エッチ」という言葉は好きではありません」 と、言われた。 そう、わ…