小林秀雄

『ドーダの人、小林秀雄――わからなさの理由を求めて』

本屋で鹿島茂の『ドーダの人、小林秀雄――わからなさの理由を求めて』(朝日新聞出版、2016)を拾い読みし、次々と変なことが書いてあるので、びっくりし、思わず買ってしまった。 その変なことのなかでもいちばん変なのは、鹿島が、小林の「美しい『花』があ…

歴史主義

朝日新聞に再掲載されている漱石の『それから』もそろそろ終わりにさしかかり、わたしはすっかり明治の人間になったつもりで、毎日それを読んでいたのだが、先日、その百六回目を読み、自分が明治の人間ではないことを改めて感じせてくれる一節に出会った。 …

アイヒマン的なるもの

小林秀雄が『満州新聞』に一九三七年から一九四〇年に書いた文章が見つかったというので、その文章が掲載されている雑誌『すばる』(2015年2月号)を購入した。感想から先に言うと、これまで読んできた小林の文章と同じもので、新しい事実は何もなかった。そ…

ドストエフスキーと似非科学(2)

人間の生は一回性しかもたない。従って、フロイトのように、人間の生、とくに心をあたかも機械のようにあつかうのが間違いであることは明らかだ。それはそうなのだが、フロイト理論がすべて間違いかと言えば、そうとも言えないところがある。たとえば、私た…

ドストエフスキーと似非科学(1)

すでに述べたことだが、いまだに似非科学を用いてドストエフスキーの作品を論じる人があとをたたないので、今一度述べておこう。 科学と似非(えせ)科学は、再現性があるかないかで区別がつく。たとえば、最近話題になっているSTAP現象やSTAP現象で生成され…

「謎とき」シリーズがダメな理由(5)

和洋折衷のコミックバンド すでに述べたように、小林秀雄のいう「「アキレタ・ボーイズ」という和洋折衷のコミックバンド」のひとつである江川・亀山コンビが読売文学賞を受賞した。これはそのコミックバンドが社会的に認められたということを意味する。誰が…

「謎とき」シリーズがダメな理由(4)

ソシュールが右翼? 今から考えると、離人症から私が癒えはじめたとき、つまり「[file:yumetiyo:森有正、そして小説について.pdf]」で述べたような出来事が私に生じたとき、私は「自尊心の病」から癒えはじめたのだと思う。言い換えると、60年安保で逮捕さ…

「謎とき」シリーズがダメな理由(1)

はじめに 鬼束ちひろの「月光」という歌は、こんな風に始まる。 I am GOD'S CHILD(私は神の子供) この腐敗した世界に堕とされた How do I live on such a field?(こんな場所でどうやって生きろと言うの?) こんなもののために生まれたんじゃない (『や…

オーウェル

若い頃の読書というのは、たとえそれが強制的なものであったとしても、のちのちまで強い影響を与える。こんな風に断言するのは間違いかもしれないが、少なくとも私にとってはそうだ。 たとえば、高校生の頃、英語の授業でオーウェルの『動物農場』とモームの…

ドストエフスキーと私

昨日、30分だけだったが、神戸外大ロシア学科の同窓会(楠露会)で話をさせて頂いた。以下はその原稿。 - ドストエフスキーと私 きょうは会のために何か話をしてほしいと山田さんから御依頼を受けましたので、私がなぜドストエフスキー研究者になったのか…

鳩山由紀夫を批判するな

前回、鳩山由紀夫と小沢一郎の悪口を言ったが、小沢はともかく、鳩山由紀夫を私は嫌っているわけではない。いや、小沢にしても嫌いではない。なぜなら彼らは政権交代を成し遂げたからだし、そのために団結することができたからだ。その一点で私は彼らを高く…

蟻の兵隊

ブログ「連絡船」の木下和郎さんに教えてもらったドキュメンタリー映画『蟻の兵隊』をようやく見ることができた。その映画に登場する元日本兵奥村和一さんへのインタビューを収めた『私は「蟻の兵隊」だった―中国に残された日本兵 』(岩波ジュニア新書)も読…

追補・大岡昇平とドストエフスキー

福井勝也の「大岡昇平とドストエフスキー──『野火』を中心に」(『ドストエーフスキイ広場 No.19』)を読んでやりきれない気持になったことについては先のブログ(「大岡昇平とドストエフスキー」)で述べた。しかし、どうも言い足りないので、私の考えをもう…

大岡昇平とドストエフスキー

新しい『ドストエーフスキイ広場 No.19』が送られてきたので、見ると、巻頭に福井勝也の「大岡昇平とドストエフスキー──『野火』を中心に」という論文が載っている。巻頭に掲げられるということは同人諸氏から高く評価された論文ということだろうか。しかし…

平地人

今では記憶して居る者が、私の外(ほか)には一人もあるまい。三十年あまり前、世間のひどく不景気であった年に、西美濃(にしみの:岐阜県南部)の山の中で炭を焼く五十ばかりの男が、子供を二人まで鉞(まさかり)で斫(き)り殺したことがあった。 女房は…

小林秀雄とお光さま

小林:「さっき、僕のおっ母さんは天理教だと言ったろ。それがね、晩年、病気になってから、お光さま(世界救世教のこと)に転向したんだ。それだから、僕もお光さまになった。」(中略) 小林:「お袋は医者も薬も軽んじていたが、晩年はもうお光さまのおさ…

ヴァイオリニストは女にかぎる

ジャニーヌ・ヤンセンのヴァイオリンを聴いて、小林秀雄の「ヴァイオリニストは女にかぎる」という言葉を思い出した。なぜ小林がそう言うのか理由がよく分からないけど、小林は正しいと思う。男はヤンセンみたいに弾けない。狂ったように髪を振り乱し、よだ…

にも拘わらず

にも拘わらず、私は小林秀雄を尊敬している。これは小林が翼賛的な体質を持っていることとは無関係だ。大岡昇平は日米開戦時の小林の翼賛的な発言などに幻滅し、自分の先生である小林から離れていった。そして、小林に代表されるような日本のインテリに絶望…

天皇と小林秀雄

昨夜、寝つかれないまま、小林秀雄講演第一巻「文学の雑感」(新潮社)というCDを聴いていたら、その昭和45年の講演のあと、小林に「天皇とどう付き合えばいいのか」と問う男性がいた。その質問に対して小林は、「そんな抽象的な質問をしてはだめだ。天皇…