2016-01-01から1年間の記事一覧

田宮虎彦

田宮虎彦は父親から虐待を受けて育った。その父親のイメージと当時の軍国主義へと傾斜してゆく世相が重なり、田宮を苦しめる。それを田宮は次のように表現した。 大学を出たところでむなしい人生しか残されていはしないということが、既にのぞき見ていた世の…

吾輩は猫である

本日の「吾輩は猫である」。 「第三にと……迷亭? あれはふざけ廻るのを天職のように心得ている。全く陽性の気狂(きちがい)に相違ない。第四はと……金田の妻君。あの毒悪な根性は全く常識をはずれている。純然たる気じるしに極(きま)ってる。第五は金田君…

顔にはすべてが出る。自分では隠しているつもりでも、他人には全部分かってしまう。だから、自分を飾るのは無意味なのである。 ・・・テレビの画面には、着陸した特別機にタラップが架けられ、坊主頭の小野田寛郎少尉が縦縞の水色の背広を着て、扉口に出てき…

落合恵子

最近、朝日新聞が朝刊・夕刊とも良くなってきた。相変わらず、朝日特有の左翼病な記事も多いが、新聞全体のバランスが良くなり公平になってきた。編集者が変わったのだろうか。金原ひとみの連載小説やこの落合恵子へのインタビューも読ませる。 人生の贈りも…

パターナリズム

佐藤愛子は正しい。 優しさというのは人間をダメにする。相手の気持を推し量って、先回りして・・・というのは、バカのすることである。こういうのを英語ではパターナリズム(paternalism)という。パターナリズムは相手を自分の思うままに振り回そうとする…

誰のための愛

この前テレビを見ていたら、倍賞千恵子とクミコという人が「誰のための愛」という歌を歌っていた。いい歌だった。思わず泣いてしまった。 その歌は三浦綾子の「氷点」という小説をもとにしたものらしい。歌詞に旭川と「氷点」という言葉が出てくる。「氷点」…

ドストエーフスキイの会

受講生からドストエフスキーの研究会みたいなものがあるんですか、と、質問されることがときどきあるので、その会を次に紹介します。 http://www.ne.jp/asahi/dost/jds/index.htm また、次の「木下豊房ネット論集」冒頭の「商品としてのドストエフスキー――商…

中也の「皺」の理論について

ベルクソンと中也の関係について授業でときどき話をしますが、その話の下敷きになっている拙稿「中也の「皺」の理論について」を読みたいと言われる受講生がおられましたので、pdfファイルにして掲載します。クリックして下さい。拡大すると、少しは読みやす…

夏苅郁子 

このインタビュー記事は良かった。しばしば、朝日新聞は下らない、廃刊した方がいい、と思うことがあるのですが、こういう記事が載ると、やはり朝日はいいと思う。私がこの医者を愛するのは、えらそうに説教しないし卑怯ではないから。ありのままの自分を他…

物語の暴力 

最近の理研によるSTAP細胞論文の捏造、朝日新聞による吉田調書の誤読、朝日新聞による慰安婦報道の訂正、さらに産経・読売による菅総理の原発事故対応に対する誤報、さらに、さまざまな冤罪事件などを見ていると、やはり、私のいう「物語の暴力」、つまり思…

馬鹿になる方法 

そろそろ身辺を整理しておかなくてはと思い、最近、雑誌類をつめたダンボール箱を覗きながら雑誌をめくっていると、こういう文章に出遭った。 「毎朝、毎晩、ああいふものを読んでゐたのでは精神衛生上、頗る有害である。予防医学的見地から言へば、新聞と称…

ありのまま

ありのままでいい、と、なぜ分からないんだろう。威張ったり、人をバカにしたり、卑下したり、頭が悪いとか良いとか言ったり、顔が良いとか悪いとか言ったり・・・分からないんだろうな。悲しいよ。 - ■障害者でよかった、今思う 奈良崎真弓さん(本人会サン…

味覚

人間というものは、自分の生存が脅かされると味覚を失う。吉田健一はそのことについてこう述べた。 その四年前に、アメリカとの戦争が始まった晩に銀座のバアで飲んでいて、先輩の一人が、戦争が起れば味覚は四十八時間のうちに消滅すると言ったのが、その時…

小川国夫

先の記事を書いたあと、どうしてわたしがシュペルヴィエルという詩人などを知っていたのだろう、わたしの趣味ではないはずだ。多田智満子の影響なのか・・・と、不審に思っていたが、あるとき、これは小川国夫の真似だということを思いだした。 心臓の悪かっ…

マンディアルグ

少し前の公開講座のあとの飲み会(高架下の飲み屋)で、なぜか学生時代(いや、違うか)に愛読していたマンディアルグのことを思いだして、しょーもないことをああだこうだと話していたとき、何の拍子でか、なぜかマンディアルグの短篇「満潮」を思いだし、…

いじめ

私は専門のドストエフスキー研究についやした時間よりも不登校とか引きこもりの子供たちや大人たちと付き合った時間の方が長いと思う。そんなことをし始めたのは、私の娘がいじめで不登校になったのがきっかけだが、最初はおそるおそる、そのうち本気で彼ら…

松下昇

松下昇氏は神戸大学の教員だったが、神戸外大で自主講座をしていた。神戸外大の教員だった中岡哲郎先生といっしょにやっていたのだったか。神戸外大が全共闘によって封鎖されていたときだ。私は二回行ったけど、面白くないので、行かなくなった。と言うより…

立花隆

「・・・クリスチャンの家庭に育ち、こびることは、生き方として恥だと教え込まれた。母に「肉体を殺すことが出来ても、魂を殺すことが出来ない者を恐れるな」とも教えられた。ローマの権力を恐れる弟子たちにイエスが述べた言葉で、世俗権力を恐れるな、神…

芸術の力

このたび来日した、ビーチ・ボーイズのメンバーだったブライアン・ウィルソンの言葉(『朝日新聞』、2016年3月23日夕刊より)。 「音楽を作るのは時に、とても孤独な作業。その孤独から僕自身を救い出してくれるのは、メロディーなのです、おそらく」 たしか…

アホばか間抜け大学紀要

昔、谷沢永一が「アホばか間抜け大学紀要」という文章をある雑誌に載せたことがあった。私は今もこの雑誌を大事に保存していると思う。思う、というような自信のない言い方をするのは、保存したのは確かだが、どこにあるのか分からないからだ。 谷沢永一はこ…

空気

最近の福島の放射能汚染に対する騒ぎを見ていると、昔のPCB汚染騒動やイタイイタイ病のことを思い出す。 PCB汚染騒動では、有吉佐和子が朝日に「複合汚染」という連載小説を書いたり、漁業関係者が風評被害を受けたりしたのを記憶している。ところが、しばら…

無神論者、それも徹底的な

アナーキストの椎名其二については「ドストエフスキー研究者 松尾隆の評伝」でも少し触れたが、椎名は日本が先の戦争中、妻の母国であるフランスにいた。 椎名は石川三四郎や大杉栄の友人だった。椎名はフランスにとって敵国の外国人であったので、収容所に…

永遠の中のゼロ

宇宙の永遠の時間の中で、地球が存在する時間は一瞬というより、かぎりなくゼロに近い。そのかぎりなくゼロに近い地球の時間の中に生を受けた私たちの人生はさらにゼロに近い。人は生まれた瞬間に死ぬのだ。これが私が六歳の頃に知った真実なのである。生ま…

不登校

いじめで不登校になる子供も多いですが、なんとなく学校がいやだ、という不登校児も多い。中でも、先生と合わないというのが多い。小学校の担任は専制君主みたいなもんですから、粗暴とかわがままな担任に当たると、登校が不可能になる。粗暴とかわがままな…

才能

楽譜は手段にすぎないということ。大事なのは、その楽譜によって作られている世界です。世界が先にあって、それを楽譜が写す。そして演奏者が、その世界を再現する。楽譜だけを忠実に再現する演奏はつまらない。また、もとになる世界のない、楽譜だけで作ら…

笑い声 

私が大学を定年で退職したある年の3月31日の午後5時過ぎのこと。研究室の整理も終え、やれやれと思いながら、自転車をゆっくりこいで帰ろうとしていたときのこと。 あと10メートルぐらいで校門というところで、自転車の前を横切ろうとした人を避けよう…

文脈

ある男が詐欺にあった好きな女に「お前はバカだなー」と言うとすれば、この「バカ」というのが「記憶力や理解力が世間一般の人に比べてひどく劣っているととらえられること」(『新明解国語辞典』)という辞書的な意味でないことは明らかだ。しかし、では、…

沢木耕太郎

朝日新聞に掲載されている沢木耕太郎の連載小説「春に散る」。ボクシングの好きな私は切り抜いて愛読している。その330回目。 翔吾という若者が主人公の広岡に、中国から帰化した両親の息子と対戦したときのことを話す。汚いボクシングだった。相手は人生…

コヘレト

きょうはカトリック尼崎教会で、小川正巳先生のお通夜だった。享年97歳。先生は私の親父と同じ年に生まれた。私の親父は70過ぎに亡くなったが。 小川先生に入れといわれて私が入った文芸同人誌の『たうろす』の同人は、遅れて中尾が来たのみ。中尾によれ…

「サウルの息子」

きのう四条の「京都シネマ」で、ネメシュ・ラースローの「サウルの息子」というハンガリーの映画を見た。 平凡な感想かもしれないが、私たちが生命(いのち)に出会うためには、どれほど生命ではないものをおびただしく経験しなければならないのかということ…