共通感覚

共通感覚

亀山郁夫の『磔のロシア──スターリンと芸術家たち』は共通感覚というものを無視した妄想に満ちた悪書だが、これが2002年度の大佛次郎賞(朝日新聞)をもらったのには驚いたものである。そのことについては、すでに「はてなダイアリー」で述べた。しかし…

マスタベーション

きのう医者に行って、待合室に置いてあった「婦人公論」をめくっていると――その医院には子供向けの絵本か女性向けの雑誌しか置いてないのである――伊藤比呂美が同年輩の女性たちと、自分は「超高齢者」の夫を亡くしたあと、世話する相手がいないので欲求不満…

内村剛介

わたしは内村剛介の書いたものをわりあいよく読んできたほうだと思う。ソ連の収容所などに関して、知らないことをいろいろと教えてもらった。これは感謝している。 しかし、あるときから、内村剛介は詐欺師と言ってもいい人ではないのか、と疑うようになった…

吾輩は猫である

本日の「吾輩は猫である」。 「第三にと……迷亭? あれはふざけ廻るのを天職のように心得ている。全く陽性の気狂(きちがい)に相違ない。第四はと……金田の妻君。あの毒悪な根性は全く常識をはずれている。純然たる気じるしに極(きま)ってる。第五は金田君…

歴史主義

朝日新聞に再掲載されている漱石の『それから』もそろそろ終わりにさしかかり、わたしはすっかり明治の人間になったつもりで、毎日それを読んでいたのだが、先日、その百六回目を読み、自分が明治の人間ではないことを改めて感じせてくれる一節に出会った。 …

お笑いドストエフスキー講座

人間には二種類あって、ひとつは、人を笑わせるのが上手な人で、これは少ない。この種類の人間は稀少かつ貴重な存在と言ってもいいだろう。なぜ、稀少かつ貴重なのか。それは、人を笑わせるためには、さまざまな「共通感覚(常識)」を察知する鋭敏な神経を…

出でよ、阿呆

ヴェイユが言うように、この人物は「真実を語っているのか、そうでないのか」ということだけが重要だ。それ以外のことはほんとうにどうでもいいことだ。しかし、真実を語るためには、自分の生きている世界の共通感覚(常識)が分からなければいけないととも…

ヒットラーの手法

「内部の、そして外部の敵を探せ、そうすれば、われわれは団結できる!」 このヒットラーの手法こそ、ドストエフスキーが『悪霊』で描いたピョートルの手法である。 オウム真理教はこのやり方を反復した。尼崎の大量殺人鬼・角田美代子もこのやり方を反復し…

続々・「謎とき」シリーズがダメな理由(4)

ありのままでいい 前回、マリアとワルワーラ夫人が教会で会った日、そして『悪霊』にスタヴローギンが登場した日はロシア正教の十字架挙栄祭で、旧暦(ユリウス暦)の9月27日だと述べた。また、亀山のように、十字架挙栄祭が9月14日だということにすれ…

続・「謎とき」シリーズがダメな理由(5)

(承前) ドストエフスキーを「ええかげん」に読むというのは、亀山のように無茶苦茶に読むということではない。そこには厳然としたルールがある。そのルールの範囲内で「ええかげん」に読め、ということだ。そして、繰り返しになるが、「自分の全存在をかけ…

続・「謎とき」シリーズがダメな理由(2)

作品全体が美を定義する 江川・亀山コンビのドストエフスキー論を読んでいていつも思うのは、なぜ彼らはこんなに変なところばかり問題にするのかということだった。この疑問に対する答は「「謎とき」シリーズがダメな理由(2)」(「死産児はいちばん大事な…

「謎とき」シリーズがダメな理由(4)

ソシュールが右翼? 今から考えると、離人症から私が癒えはじめたとき、つまり「[file:yumetiyo:森有正、そして小説について.pdf]」で述べたような出来事が私に生じたとき、私は「自尊心の病」から癒えはじめたのだと思う。言い換えると、60年安保で逮捕さ…

「謎とき」シリーズがダメな理由(1)

はじめに 鬼束ちひろの「月光」という歌は、こんな風に始まる。 I am GOD'S CHILD(私は神の子供) この腐敗した世界に堕とされた How do I live on such a field?(こんな場所でどうやって生きろと言うの?) こんなもののために生まれたんじゃない (『や…

『ドストエフスキー 父殺しの文学』批判(10)

外国人にイソップ言語は分からない すでに述べたように(「亀山郁夫とイソップ言語」)、スターリン体制下の「二枚舌(ないしは面従腹背)(двурушничество)」(亀山郁夫、『磔のロシア──スターリンと芸術家たち』、p.59)と、帝政ロシアで使われた「イソッ…

亀山郁夫とイソップ言語

「亀山郁夫の傲慢」で明らかにしたように、亀山は私のいう「自尊心の病」に憑かれている。また、「続・自尊心の病」で述べたように、自らの自尊心の病に気づくことができない者は『地下室の手記』以降のドストエフスキーの作品を理解することができない。 な…

ロシア語の語順 

ロシア語を知らない人には、亀山郁夫が『カラマーゾフの兄弟』の或る重要な一節を、「ロシア語は、基本的に語順は自由」と断言しながら論じていることに、なぜ木下豊房が怒り狂っているのか分からないだろう。しかし、それは怒り狂うのが当然なのであり、5…

名前について

亀山は序文でも「アレクセイ・カラマーゾフ」と訳していたが、本文でもそう訳している。 アレクセイ・カラマーゾフは、この郡の地主フョードル・カラマーゾフの三男として生まれた。父親のフョードルは、今からちょうど十三年前に悲劇的な謎の死をとげ、当時…

スタヴローギン症候群、ハチマキ訳

【亀山訳4】 もっともわたしは、こんなくそ面白くもない曖昧模糊とした説明にかまけず、序文なしでいきなり話をはじめてもよかったのだ。ひとは気に入れば、最後まできちんと読みとおしてくれるだろうから。 しかし、ここでひとつやっかいなのは、伝記はひ…