亀山訳『カラマーゾフの兄弟』批判

タコツボ

昔、木下豊房とともに亀山郁夫のスタヴローギン論や『カラマーゾフの兄弟』の翻訳についてロシア文学会あてに亀山との公開討論を申し込んだ。しばらくすると、討論会をしましょうという返事がロシア文学会から来たのだが、直前になって、木下豊房から討論会…

吉本隆明の亀山郁夫批判

テレビで亀山の「100分de名著」を見ていて、吉本隆明の「大衆の原像」という言葉を思いだした。それは亀山がドストエフスキーの土壌主義のことをのべていたからだ。 このブログ(「第二の敗戦期」)でも紹介したが、吉本は亡くなる前、亀山の訳した『カラマ…

(続々)亀山郁夫の「100分de名著」

正月に、たまりすぎたテレビの録画を消去していて、偶然、亀山の「100分de名著」の最終回(第四回)を見てしまった、ということについてはすでに述べた。見なければよかったのだが、見て、不愉快になり、ついブログに不愉快になった理由を書いてしまった。と…

(続)亀山郁夫の「100分 de 名著」

前稿を書いたあと、きょう、もう一度、亀山郁夫の「100分 de 名著」の最終回の録画を見た。私はかなり前、一度亀山のその番組を見たきりで前稿を書いたので、記憶を確認するために、もう一度見たのである。見て、私は自分の記憶にかなり間違いがあることに気…

アルマーニの制服

これは人のワルクチである。気分が悪いが、言わなければなるまい。 銀座の泰明小学校の校長が生徒にアルマーニの制服を四月から着せるそうだ。「ヴィジュアル・アイデンティティ」とかいうわけのわからんものを生徒に身につけさせたいということだ。要するに…

第二の敗戦期

最近、フォルクスワーゲンのディーゼルエンジンをめぐる不正が問題になっている。そんな不正を行ったのは、フォルクスワーゲンがトヨタなどに負けまいとして、車の販売数を伸ばそうと焦りすぎたためだということだ。 規模も業種も違うが、これは昨今の日本の…

ロシア語の語順 

ロシア語を知らない人には、亀山郁夫が『カラマーゾフの兄弟』の或る重要な一節を、「ロシア語は、基本的に語順は自由」と断言しながら論じていることに、なぜ木下豊房が怒り狂っているのか分からないだろう。しかし、それは怒り狂うのが当然なのであり、5…

「大きな引き出し」

【亀山訳7】 彼は二度結婚し、三人の子どもをもうけた。長男のドミートリーは最初の妻とのあいだに生まれた子どもで、残りの二人、すなわちイワンとアレクセイは二度目の妻とのあいだに生まれた。フョードルの最初の妻は、かなりの資産家でこの土地の地主で…

致命的なプロットの誤訳

【亀山訳6】 第一部 第一編 ある家族の物語 1 フョードル・パーヴロヴィチ・カラマーゾフ アレクセイ・カラマーゾフは、この郡の地主フョードル・カラマーゾフの三男として生まれた。父親のフョードルは、今からちょうど十三年前に悲劇的な謎の死をとげ、…

名前について

亀山は序文でも「アレクセイ・カラマーゾフ」と訳していたが、本文でもそう訳している。 アレクセイ・カラマーゾフは、この郡の地主フョードル・カラマーゾフの三男として生まれた。父親のフョードルは、今からちょうど十三年前に悲劇的な謎の死をとげ、当時…

構造的誤訳

【亀山訳5】 これらの問いに答えようにも、わたし自身混乱しているので、ここはいっさい解答なしで済ませることにする。むろん、勘のするどい読者は、そもそものはじまりからわたしがそういう腹づもりであったことをとっくに見抜いて、愚にもつかない御託を…

スタヴローギン症候群、ハチマキ訳

【亀山訳4】 もっともわたしは、こんなくそ面白くもない曖昧模糊とした説明にかまけず、序文なしでいきなり話をはじめてもよかったのだ。ひとは気に入れば、最後まできちんと読みとおしてくれるだろうから。 しかし、ここでひとつやっかいなのは、伝記はひ…

「トンボ文」と命名

【亀山訳3】 もしもみなさんがこの最後のテーゼに同意せず、「いや、そんなことはない」とか、「かならずしもそうとは限らない」とでも答えてくれるなら、わたしの主人公アレクセイ・カラマーゾフのもつ意義について、わたしとしてはきっと大いに励まされる…

奇人変人は害になる?

【亀山訳2】 なかでも、最後の問いがもっとも致命的である。というのは、その問いに対して、わたしは次のように答えるしかすべがないからだ。「小説をお読みになれば、おのずからわかることですよ」と──。 しかし、読み終わったあとでもやはり答えが見つか…

アレクセイなんて偉大じゃない?

以下は亀山訳『カラマーゾフの兄弟』を点検するさいの作業手順。 1)作業はドストエフスキーが区切った一段落ごとに行う(テキストはナウカ版ドストエフスキー全集)。 2)亀山訳を読み、ロシア語原文との違いを点検する。 3)必要があれば、原文を見なが…

段落問題

いやはや、どこに落とし穴があるか分からない。これだから人の翻訳をあれこれ批判するのはこわい。批判しているつもりが、自分の無知蒙昧ををさらけ出しているんだな。まあ、しかたないか。気を取り直して進もう。 『カラマーゾフの兄弟』のエピグラフのあと…

一粒の麦

みすず書房宛の抗議文にも書いたが、私は亀山郁夫に何の恨みもない。というより、昔からの友人だ。ずいぶん以前、亀山が天理大学に勤務していた頃、そして佐藤優が同志社の大学院生だった頃、佐藤の先生だった渡辺雅司と四人で毎週のように同志社周辺を徘徊…