空気

 最近の福島の放射能汚染に対する騒ぎを見ていると、昔のPCB汚染騒動やイタイイタイ病のことを思い出す。
 PCB汚染騒動では、有吉佐和子が朝日に「複合汚染」という連載小説を書いたり、漁業関係者が風評被害を受けたりしたのを記憶している。ところが、しばらくすると、PCBが毒になるというのは嘘だと分かり、私たちは魚介類を以前と変わらず食べ始めた。
 また、富山のイタイイタイ病の原因がカドミウムか否かということは、いまだに分からないままだ。山本七平の「「空気」の研究」によれば、世界のカドミウム鉱山の近くでイタイイタイ病のような被害が出たのは富山の神通川流域だけだそうだ。
 それから、これは私自身の体験だが、以前、和歌山の龍神村に住んでいたとき、大金をはたいて(あとで村の補助を受けたが)、庭に念願のゴミ焼却炉を作った。しかし、作ってしばらくすると、ダイオキシン騒動が起きて、村の指導で、各家庭のゴミ焼却炉は使用禁止となった。ために、ゴミ焼却炉は壊した。ところが、これもしばらくすると、ゴミ焼却炉から出るダイオキシンの毒も人体には無視できる程度のものだということが分かった。
 日本人だけではないが、特に日本人には事実を調査する前に騒ぎ立てる癖があるらしい。騒ぎ立てる前に、事実かどうか確かめるのがよいと思うのだが、どうしても不安から騒ぎ立てる人が出てくる。
 無理もないことなのだが、騒ぎ立てていると、殺気だった「空気」が醸成されて、冷静な調査もできなくなる。
 また、騒ぎ立ててそれを政治的に利用しようとする意識的あるいは無意識的な詐欺師もいる。
 何度同じ失敗を繰り返せばいいのだろう。つくづく日本人は「空気」に弱い民族だと思う。