仁義なき戦い

 京都府立医科大学の学長が暴力団組長との交際の件で、マスコミなどにいろいろ取りざたされ、体調を崩し、退任することになった。
 暴力団というと、わたしには忘れられない事件がある。
 あれは大阪のある大学の夜間部で教え、学生食堂で食事を終え、神戸は大倉山下のなめくじアパートに帰っているときのこと。ちょうど神戸で山口組の内部抗争があった頃だ。
 学生食堂で食べたものが悪かったのか、花隈駅で降りたとたん、急に腹が痛くなり、あわててアパートに向かって猛ダッシュ。背中に本が大量に入ったリュックを背負っていた。
 すると、いきなり、取り囲まれ、拘束された。
「どこに行くんや」
「家です」
「どこや」
「あそこ」
「なんで走るんや」
「腹がいたい」
「え」
 なぜか彼らはがっかりしながら、闇の中に消えていった。
 家に帰ると、かみさんが顔色を変えて、「この近くでピストルの発砲事件があったのよ」と言った。そんなこと、どうでもよろしい、と、私は急いでトイレに駆け込んだのであった。
 しかし、あれは何だったのだろう。便意が恐怖に勝った事件であった。