全体主義

 きょうの朝日新聞丸山真男朝日新聞記者宛の私信が載せられていた。私信でしか本音を言わない丸山も丸山だが、今頃になってそれを載せる朝日もどうかしている。昔、わたしがモスクワにいた佐藤優にこの丸山と同じようなことを書いた年賀状を送ったら、それ以来佐藤から、ぷっつり年賀状が来なくなった。これが天皇制の恐ろしさなのである。

■丸山氏からの手紙(引用) パーティー中止「ブルータス、君もか」/昭和史全体の展望、未来性も

 【自粛の全体主義

 「『自粛の全体主義』には私もただ唖然(あぜん)とするほかありません」「朝日新聞も、東京創刊百周年記念パーティーを『諸般の事情』により中止する旨のお報(し)らせをいただきました。『ブルータス、君もか』とはこのことです」

 【トピック集中主義と歴史的評価

 「しかし、だからといって、天皇の重病と、戦争責任をふくむヒロヒト天皇の長い在位の歴史的意義とを直接に結びつけねばならぬような発想もまた私には無縁です。重病は、あるいは最悪の事態も、それ自身一つのトピックであり、それ以上のものではありません。一人の人間の死に際しては、その死をいたむのが自然の情であり、〈その機会に結びつけて〉、その人間の歴史的評価をするのは、プラス評価にせよ、マイナス評価にせよ、二つの異(ことな)ったレヴェルの混同であり、日本のマスコミに典型的なトピック集中主義(逆にいえば持続的問題関心の欠如)のもう一つの事例にすぎません」

 【日本人の知性と批判精神】

 「あなたは、〈今〉を過ぎると、天皇制の論議がなくなるのではないか、と心配されているようですが、失礼ながらあなたもそういうトピック主義にいつの間にか陥っておられるのではありませんか。私はもう少し日本人の知性と批判精神に高い評価を与えたい気がします」

 【未来性を持つ歴史的展望】

 「病状の刻々の報道とかいったバカバカしい騒ぎが一段落し、次の天皇の即位のトピック的集中性も鎮静すれば、昭和史全体の展望と、ヒロヒトの戦争責任問題をふくむ在位期の歴史的意味について、躁(そう)状態を脱した広く深い論議が〈はじめて〉提起されるようになるでしょう。そういう〈歴史的〉展望はいうまでもなく、次期天皇のあり方を問うという〈未来性〉をも持っています。私はむしろ、そういう段階で、マスコミがどこまで〈持続的に〉その問題を追及するだろうか、という方が心配です」

 (〈 〉は、手紙の原文では下線)