好きな作家

風立ちぬ

宮崎監督の「風立ちぬ」というアニメ映画を見ました。ドストエフスキーの作品ほどではありませんが、「風立ちぬ」というアニメもポリフォニック(多声的)な内容をもっていると思いました。つまり、この作品をどんな風に見るかによって、見る人の人となりが…

ユーモア

桑原武夫が「ものいいについて」(1946年)というエッセイで紹介していることだが、中国人の林語堂が「日本人はユーモアが零点だ」と述べているそうだ。これはたしかにその通りで、中国人ではない私でさえ、いつも身にしみて感じていることだ。 私は子供…

「最初の人間」

今週の水曜日、四条の京都シネマで「白夜」(ドストエフスキー原作、ロベール・ブレッソン監督)と「最初の人間」(カミュ原作、ジャンニ・アメリオ監督)を続けて(午後1時15分から5時まで)見ることができた。カミュはドストエフスキーの弟子を自認し…

オーウェル

若い頃の読書というのは、たとえそれが強制的なものであったとしても、のちのちまで強い影響を与える。こんな風に断言するのは間違いかもしれないが、少なくとも私にとってはそうだ。 たとえば、高校生の頃、英語の授業でオーウェルの『動物農場』とモームの…

蟻の兵隊

ブログ「連絡船」の木下和郎さんに教えてもらったドキュメンタリー映画『蟻の兵隊』をようやく見ることができた。その映画に登場する元日本兵奥村和一さんへのインタビューを収めた『私は「蟻の兵隊」だった―中国に残された日本兵 』(岩波ジュニア新書)も読…

ドストエフスキー研究者 松尾隆の評伝

私が最近繰り返し読んでいる評伝について述べておこう。 ひとつは『パリに死す 評伝・椎名其二』(蜷川譲、藤原書店、1996)で、これは私が定年になると大学図書館に戻さなければならない本なので、最近未練がましく読み返している。買えばいいのだが、引っ…

緊急順不同

もうすぐ定年なので研究室にある本を整理しているということは前に書いたが、昨日も授業のあいまに整理していると、中野重治の本がかなり出てきた。さあ、これをどうするか、と、首をひねりながら、未練がましく撫でさすっていると、三十年前の記憶がよみが…

「カティンの森」

ワイダの「カティンの森」を見た(シネ・リーブル梅田)。何度も見たいと思った。ワイダの最高傑作だろう。これは言葉の真の意味で「女性映画」だ。出てくるポーランド女性がすべて美しく清潔で強靱だ。女性だけが持つ強靱さが鮮明に描かれていると思った。…

島尾敏雄の「青春」

あと一年少しで定年なので少しずつ研究室にある本の整理をしているのだが、なかなか片付かない。定年後は病院とか図書館が近くにある賃貸の公団住宅に引っ越し、体力と運と命があれば、スーパーの駐車場などで車の交通整理をしながら余生を過ごすつもりだ。…

ユマニスム

ドストエフスキーがめざしたもの。ドストエフスキーとリルケは似ている。 ユマニスムから出発するとすべてが実にいやらしい、下品なものになってしまう。これが人間の創造の秘密であり、そこにユマニスムの力の根源が在る。リールケがすべてをささげて戦おう…

おいしいヤキイモの巻

「ヤキイモ、ヤキイモ、おいしいなー」 「あんまりがっついたらノドにつめるわよ」 「ぐっ」 「ほら、いわんこっちゃない!はい!水!」 「ぶんぶんぶん」 「え?なに?水じゃないの?」 「んーーー」 「ヤキイモは牛乳派だそうです」 「あーもー、この子は…

「怪物」亀山郁夫

「怪物」亀山郁夫 いつからだろうか、背後に「神」を感じることができないような文章に耐えられなくなったのは。小説はもちろん、論文でもそうだ。雑文でも同じだ。私はそのような文章に耐えられない。たとえば、日本語で書く作家で私が繰り返し読むことがで…

好きな作家

「きょうは犬の日で紅茶をサービスしまーす。紅茶の日でもあるし」 「犬の日?」 「11月1日は、ワンワンワンってことでみたい」 「ほー、知らなかったなぁ」 「でも11月11日のほうが、ワンワンワンワンって多くていい気もするが・・・」 「そういえば…

不正

「われわれが他人から愛される値打ちがあると思うのは誤りであり、それを望むのは不正である。」(P477) このパスカルの言葉を常に心に刻みつけておくこと。シモーヌ・ヴェイユはこれでもまだ信仰が足りないと言ってパスカルを非難した。そして餓死した…

村上春樹の気配

私が村上春樹の小説を愛読するようになったのは、彼の小説に立ちこめている気配が気に入ったからだ。たとえば、「ノルウェイの森」のキズキという少年のまわりには、そのような気配が立ちこめている。キズキのまわりには、昔、いっしょに遊んでいた神戸の六…

人生永遠の書

正宗白鳥が深沢七郎の「楢山節考」を「人生永遠の書」と評したのはその通りで、何の異論もない。「楢山節考」が発表されたときから古典になっていたことは明らかだ。しかし、この古典を今の読者は理解できるだろうか。彼らの多くにとってちんぷんかんぷんで…

キミノヨウニ ヤサシイヒトハ モウイナイ

椎名麟三が1938年から1942年まで勤めていた新潟鉄工の東京事務所は有楽町にあり、椎名はそこで詩人の北川省一とともに働いていた。「椎名さんと最後にお会いになったのは?」という編集者の問いに北川はこう答える。 「私が最後に訪ねた時は、千葉かなんかに…

二代目はクリスチャン

マザー・テレサの「たとえ母親があなたを見捨てても、けっして見捨てない方がおられます」という言葉から思い浮かべるのは、「二代目はクリスチャン」という映画だ。B級映画だという人もいるが、B級映画という言葉の意味が分からない。良い映画と下らない映…

平地人

今では記憶して居る者が、私の外(ほか)には一人もあるまい。三十年あまり前、世間のひどく不景気であった年に、西美濃(にしみの:岐阜県南部)の山の中で炭を焼く五十ばかりの男が、子供を二人まで鉞(まさかり)で斫(き)り殺したことがあった。 女房は…

にも拘わらず

にも拘わらず、私は小林秀雄を尊敬している。これは小林が翼賛的な体質を持っていることとは無関係だ。大岡昇平は日米開戦時の小林の翼賛的な発言などに幻滅し、自分の先生である小林から離れていった。そして、小林に代表されるような日本のインテリに絶望…

シモーヌ・ヴェイユ

シモーヌ・ヴェイユを読み続ける。 「それでも彼女は、人々の注意が、自分の思想よりもむしろ、自分という人間に向けられるのを残念に思わずにおれなかったようである。・・・自分の知性をほめ上げたりするのは、「彼女は真実を語っているのか、そうでないの…