川端香男里と伊藤淑子

 近々、ドストエフスキー入門書みたいなものを出すので、贈呈したい人の住所を調べていたら、亡くなっている人が多いので驚いた。浦島太郎になったような気分だ。自分では気がつかなかったが、妻の看病に明け暮れするようになって以来、人交わりをする余裕を失ったようだ。
 川端香男里はわたしのそのドストエフスキー入門書みたいな本の原型ともいうべき論文(「ドストエフスキーの壺の壺――シニフィエはどこにもない」)を読んで、賛同する葉書をくれた。ドストエフスキー研究で孤独感を味わっていたわたしはとても励まされた。だから、彼には是非とも今度の本は読んでもらいたかったが、今年の二月に亡くなっていた。
 それと、亡くなっているとは思わないが、消息不明の人がいる。それはベルクソン研究者の伊藤淑子で、わたしのベルクソン論を読んで賛同してくれた。日本にベルクソンを本当に理解している人が少ないのを嘆いていたわたしは、彼女に励まされた。そのドストエフスキー入門書みたいな本でも彼女の意見を引用している。だから、本が出たら送りたいのだが、消息不明なのである。インターネットで調べると、彼女は大阪大学を出て、英知大学で非常勤講師をしていたらしい。しかし、いまや英知大学は潰れてしまって、存在しない。以前、英知大学に勤めていた多田智満子に尋ねたら分かったかもしれないが、多田智満子もいない。