リトマス試験紙

 「ありのままに生きる――引きこもりとドストエフスキー」(『現代思想』12月号、2021)という短い文章で書いたように、自尊心の病とベルクソンのいう持続は同時に分かる。
 というか、自分の自尊心の病に気づかない傲慢な人ベルクソンのいう持続も分からない。また、ベルクソンのいう持続が分からない人は、自分が傲慢であることにも気づかないので自分が自尊心の病に罹っていることも分からない。
 と、もう二十年近く学生や一般の人にドストエフスキーを教えてきて確信するようになった。
 自分の自尊心の病に気づいていない人に、自尊心の病の話をすると、大半の人が怒り出す。これは自分のいちばん言われたくないことを言われたからだ。そして、もう二度と教室には来なくなる。
 あるいは、そういう人だと知らずに、わたしが今度出した『ドストエフスキーのエレベーター――自尊心の病について』という本を贈っても、何の返事もないので、悪いことでもしたような気分になる。わたしの本は彼らの怒りとともに、ゴミ箱に放りこまれているのに違いない。
 わたしのその本が自尊心の病に罹っているのかどうかリトマス試験紙のような役目を果たしていることは明らかだと思う。こんなことを言うと、そんな人たちから、お前こそ傲慢だ、と言われそうでうんざりする。世の中にはプーチンのような自分の傲慢さに気づいていない人が多いのか。