ワイマール・コンプレックス

 昨年、NHKで放映された「ウクライナ侵攻が変える世界(1)ノーベル賞作家・アレクシエービッチに聞く」という番組でアレクシェーエヴィッチは次のように述べていた。

「・・・プーチンは大ロシア主義に取りつかれた人間です。それは大セルビア主義や大ドイツ主義と同様な考えで、流血しかもたらしません。私たちが目にしているように、流血とファシズム以外は生まないのです。そして今ロシアで起きていることは、ファシズムであると言ってもいいでしょう。他民族を蔑視し、自民族の優位性を誇ることは、ファシズムの最初の兆候なのです。
 プーチンの場合、1930年代のドイツで起きた、いわゆるワイマール・コンプレックスが根本にあると思います。第一次世界大戦で敗北したドイツは虐げられ、侮辱され、巨額の賠償金を支払わされて国民の生活は困窮し、復讐を熱望するようになりました。似たようなことが今のロシアにも起こっています。これはとても危険なことです。」

https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/blog/bl/pvo4Ar54QB/bp/pZjm3ORlpG/?fbclid=IwAR2OjjqjZwJPJV2cXenFpGsCt6TVrMgLwTPjB2ZaUycFUlR7APdkAiawhAY

 わたしも彼女と同様のことを感じていた。ヒットラーの出現を準備したのは第一次大戦での屈辱だった。そして、プーチンの出現を準備したのはソ連崩壊とそれによってもたらされたロシア国民の屈辱だった。そして、欧米諸国はそのロシア人の苦境をざまあみろという顔で見ていた(ように、わたしは思う)。わたしは偶然、ソ連が崩壊した頃、その地を訪れたのだが、ペテルブルグの町には乞食と売春婦があふれていた。 このときの屈辱が欧米に接近していたウクライナの人々に怒りとなって向けられたのだ。傷ついたロシア人の自尊心が今のウクライナとの戦争を引き起こしたのだ。どうすればいいのか。傷ついたロシア人の自尊心を慰撫するためにわれわれは何をすればいいのか。何もできないだろう。ヒトラーの戦争によってすべてを失ったドイツのようにすべてを失ったのち、ロシアは今のドイツのような自由が尊重される国に生まれ変わるしかないだろう。