狂ったメディアと政治

 この国のメディアと政治はほんとうに狂ってしまったのか。
 今朝の朝日新聞朝刊を読むと次のような記事があった。

 「前原氏が総理になったら、すぐあの問題が再燃するぞ」。22日の国会内の公明党控室で向き合った自民党逢沢一郎公明党の漆原良夫両国対委員長は、こんな会話を交わした。両党は3月、在日外国人からの政治献金問題で前原氏を追及。外相辞任に追い込んだ経緯があるからだ。
 両党内では「前原氏が出てくれば、ほかの候補では太刀打ちできない」(自民若手)との見方が強い。自民党首脳は「外相を辞めたからといって、問題が片付いたわけではない」と手ぐすねを引く。石原伸晃幹事長に近い議員は22日、前原首相を想定し、献金問題などスキャンダル追及の準備に着手する考えを示した。
 谷垣禎一総裁は、消費増税など政策的に近い野田佳彦財務相には閣外協力を示していたが、前原氏との関係は微妙だ。かつて谷垣氏が消費増税与野党協議の条件に「衆院解散」を要求した際、当時の前原外相が「日本の政治のことを考えていない。(国の)借金を膨らませた大きな責任は自民党にある」とかみついたこともあり、信頼関係は希薄だ。
 ただ、新政権に対し、「いきなり全面攻撃というわけにもいかない」(自民党体幹部)事情もある。谷垣氏周辺は「『前原内閣』が高支持率で、いきなり解散してくることが一番怖い」と漏らす。さらに、「政局優先で復興にブレーキを踏んだ」との批判を浴びるわけにはいかず、「震災対応は協力しないといけない」(山本一太参院政審会長)。)
 当面、第3次補正予算案の成立などで協力しながら、スキャンダル追及も緩めない――。「そうすれば、最初の一ヶ月で馬脚を現すだろう」(自民党参院幹部)というのはいまの自民党の見立てだ。
 民主党にとって「起死回生の切り札」として温存されるはずだった前原氏の急浮上に、公明党幹部はこう漏らす。「本命が出てくるわけか。前原氏になって民主党がボロボロになれば、この党は終わりだな」(土佐茂生)

 要するに、自民党公明党にとっては、永田町の権力争いだけが大事で、国民、特に東北の被災民のことなどどうでもいいのだ。それは山本一太の、「政局優先で復興にブレーキを踏んだ」との批判を浴びるわけにはいかず、「震災対応は協力しないといけない」、という言葉に明確に表れている。ほんとうは民主党を権力の座から引きずり下ろす作業だけをしていたいのだが、有権者から震災対応の邪魔をしていると言われて票を失うと困るので、震災対応に協力するふりをしておこう、ということだ。品性下劣、ここにきわまれり。
 これは自公だけに限らず、民主党の小沢・鳩山一派も同じだ。彼らは現在、小沢一郎党員資格停止処分を解除するよう代表選の候補者たちに働きかけている。彼らの言い分はこうだ。
 小沢先生の党員資格を回復してくれたら、われわれも代表選に協力しますよ、なにせわれわれは最大派閥ですからね、え?、違法献金問題はまだ裁判で審理中ですと?、なあに、そんなことどうでもいいではありませんか、ちいさいちいさい、政治は金で動くものですよ、金のない政治家など、羽のない鳩と同じ、いや、これは変なことを言ってしまいましたな。
 天下太平の世の中なら、こういう小沢・鳩山一派や自公議員の愚かな振る舞いも「ばかなやつらだ」ということで切って捨てることもできるだろう。しかし、現在のように国家的危機(私は敗戦以来の国家的危機だと思う)に直面しているとき、そんな愚かな振る舞いが取り返しのつかない事態を招くことは明らかだ。そのことをなぜ土佐たちは指摘しないのか。彼らはしれっと国会議員たちの生態を描写するだけだ。いや、批判は社説などで述べるからいいのです、と土佐は言うかもしれない。しかし、真実は細部に宿る。国会議員たちの愚かな言動ひとつひとつの中にわれわれの未来がある。その愚かな言動を見ていれば、わわわれの未来がどのようになるのかが分かる。つまり、われわれの未来は絶望的なのだ。社説の抽象的な言葉で議員たちを批判しても隔靴掻痒になるだけだ。だから、国会議員の生態を伝える記者は、彼らの言動がもつ正確な意味を読者に、生々しい言葉で伝えなければならない。そのような努力が土佐たちの文章にはまったく感じられない。彼らは政治家の生態をまるで静物を描くように淡々と描くだけだ。いや、政治家の先生方を批判すると取材に支障をきたしますので、と彼らは言うかもしれない。もしそう言うのなら、新聞記者など辞めて、その政治家の秘書になればいいのだ。