ラッコ

きのうプールで泳いでいると、おじいさん(私より少し上のおじいさん)が、ビート板(バタ足の練習のとき使う楕円形の板)をお腹の上に乗せて、上を向いてばたばた泳いでいた。それで、あれは何だったか、と、思い出そうとしたが思い出せない。そこで、プールの脇で年寄りが溺死しないか監視していた若い指導員の男性に、「えーと、ほら、あのお腹の上に、こう食べ物を乗せて、バチーンと割って食べる動物は何という名前だったか」と、尋ねると、よく聞こえなかったらしく、「あ、ぼくですか?ぼくの名前は・・・です」と、答えたので、「いや、そうではなく、あの人のように」と、その老人を指さしながら、「お腹の上に・・・」と、言うと最後まで聞かず、「あ、ラッコです」と答えてくれた。それで、そのおじいさんに「まるでラッコですね」と言うと、「なるほど」と答えてくれた。年を取ると、毛細血管とか末梢神経がダメになると言うが、私の頭も中の毛細血管もイカレてきたのに違いない。神経の連絡がわるい。たぶんこのためだろう、年寄りの文章はすぐ分かる。無神経なのである。この神経は末梢神経のことだろう。恐ろしい。