おおチルシスとアマントが

最近、ギターを手にとることが少なくなった。たまに手にとっても、バーデン・パウエルバリオスなどの悲しい曲ばかり弾いている。好きなはずのソルは弾く気にもなれない。
カミさんの看病を五年してカミさんに死なれ、たぶん、その疲れで自分も病気をして以来、とんと元気がない。昔読んだ中原中也の詩を思い出す。わたしは中也よりも朔太郎が好きなのだが、中也の、この「月の光」という詩は暗誦している。


おおチルシスとアマントが
庭に出て来て遊んでる

ほんに今夜は春の宵(よい)
なまあったかい靄(もや)もある

月の光に照らされて
庭のベンチの上にいる

ギタアがそばにはあるけれど
いっこう弾き出しそうもない

芝生のむこうは森でして
とても黒々しています

おおチルシスとアマントが
こそこそ話している間

森の中では死んだ子が
蛍のように蹲(しゃが)んでる