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二年前の昨日、大西巨人が亡くなった。1916年8月生まれで、享年97歳。長生きしたものだ。大西は九州大学中退だが、大学に行ったやつはラクをしているから長生きする、と、親父がいつも憎々しげに言っていたのを思い出す。私の親父は1919年生まれで、70歳過ぎに肺が腐って亡くなった。少年兵時代に患った肺壊疽が悪化したのだろう。
親父は同年代の男に会うと、「戦争中、どうしてました?」と、たずねる悪い癖があった。そして、相手が大学に行っていたなどと言うと大変で、「そりゃ、ラクでよかったですなー。わしなどは小学校もろくに行ってないもんやから、ちんぽにちゃんと毛が生えんくらいから兵隊に行かされ・・・30ぐらいになってようやく日本に帰ってきて・・・まあ、身体、がたがたですわ。あんたは長生きしますやろな。よかったですなー、大学出は」などと、えんえんとイヤミを述べた。
私がかみさんと結婚するときも、これをやって、かみさんの初対面の父親に、「そうですか。京都帝大ですか。ラクでしたなー。え?戦争には行ってない?何をやって・・・ああ、測量ですか。よろしいなー、わしなど、ほら、この傷、見てみなはれ、・・・」などとやったので、かみさんの父親は真っ赤な顔をしてうなだれていた。親父、おれの結婚の邪魔をする気か、と、思ったのだが、そうではなく、ほんとうに腹を立てていたのであった。