ハゲタカ

 妻は四年前、最初の病院(A病院としておこう)で、余命一週間と宣告されたのち、それが誤診であるということが分かり、しばらく治療を受けていたが、A病院では手に負えないということで、別の病院(B病院としておこう)に移った。妻の病状について回想するつもりはない。それは冷凍保存のままにしておく。たぶん、忘れてしまうだろう。
 ただ、忘れられないことがあったので、それについてのみ記しておこう。
 A病院で妻が余命一週間と宣告された直後、私が病院から帰宅し、妻の下着の洗濯などをしていると、インターホンが鳴った。インターホンのカメラを見ると、見知らぬ女性が映っていた。私は放置した。翌日、同じ女性が来て、同じようにインターホンを鳴らした。また、私は無視した。その翌日も同じ。何日続いただろうか。それからしばらくすると、別の女性が二人でやってきて、インターホンを鳴らした。私はこれも無視した。彼女たちがやってきたのは、二度ほどだったと思う。
 それから、妻はB病院に移り、医者から、早ければ余命半年と宣告された(妻はそれから三年近く生きたのだが)。

 妻がB病院に移ったあと、最初に、ネクタイを締めた背広姿の初老の男性が来て、インターホンを鳴らした。三度ほど来たと記憶している。その男性が来なくなると、別の人々が来るようになった。そういう具合で、妻が死を宣告されてから、一週間に一回ぐらいは誰かがインターホンを鳴らすようになった。私はずっと家にいたわけではないので、本当の回数は分からないのだが。
 しかし、妻が亡くなると、そういう人たちはぱったり来なくなった。まるでハゲタカだなと私は思った。